★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 世界一周デート 第1号 「新婚旅行は世界一周!」と鼻息も荒く飛び出した旅 行好きの妻と今回が初めての海外旅行となる夫。リア ルタイムな旅レポートをお届けしようと奮闘中!! ●発行日 2002年7月18日(旅立ちから5日経過) ●現在地 シュムリアップ(カンボジア) ●次なる目的地 プノンペン(カンボジア) 7月19日到着予定 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ トラックの荷台に15人 -前編- (カンボジア) 2メートル四方という大きさを想像してみてほしい。 このスペースに人間(大人)15人と15個のバックパッ クを収めるのだ。そんなことが可能なはずはない、私 は最初そう思っていた。しかし、ここカンボジアでは、 そんなことは朝飯前。われわれの常識、固定観念は捨 てたほうがよさそうだ。 はじめての陸路国境超えはとてもエキサイティングだ った。それも数時間前のできごとだ。そのときには、 まさかこんなにも過酷な体験をすることになるとは夢 にも思っていなかった。タイとの国境を越えカンボジ アに入国後、われわれは1台のマイクロバスに乗り換え た。このマイクロバス、韓国のHYUNDAI製でありながら、 「MITSUBISHI」のロゴがでかでかとフロントに付いて いる、胡散臭さ全快の骨董車だ。バンコクの旅行代理 店ではエアコン付きのバスだと言われていたが、そん なものは当然どこにも付いていない。そもそもバンコ クからシェムリアップまで150バーツ(=約510円)の 格安バスチケットだ。快適さを期待するのが、贅沢な 話だとも言えよう。 マイクロバスに揺られること約2時間。休憩のため、1 軒のレストランに立ち寄った。われわれを下ろしたバ スは、1時間後に戻ってくるという。そしてそれから待 つこと2時間が過ぎた。ようやく現れたのは、先ほどの マイクロバスではなかった。そもそもバスではない。 フロントに運転席があって、後方に荷台が配置されて いる。いわゆるトラックと呼べる乗り物だ。それも小 型のトラック。まさか……僕のいやな予感は的中した。 ツアーガイドのおにーさんが、「これに乗れ!」と繰 り返す。「これ」とはまさしく荷台のことだ。トラッ クの荷台といっても、かなり狭い。冒頭で触れたが、 約2メートル四方程度のスペースしかない。そこに先ほ どマイクロバスに乗っていた15人すべてが乗るのだ。 人間だけならまだしも、15人分の荷物があるので、実 スペースはもっと狭くなるだろう。乗客はみな、巨大 なリュックを背負ったバックパッカーたちだ。ひとり 当たりの荷物の大きさもハンパない。そんなこと物理 的に不可能だ! 何人かの西洋人たちが、激しい抗議を始めた。英語な ので詳しいことは聞き取れなかったが、「このスペー スにこの人数が乗るのは不可能だ!」と、皆が主張す るのは一様にこの点だった。また、「さっきのバスは どうしたんだ?」という、至極当然な質問も飛び交っ た。ちなみに真偽は不明だが、マイクロバスは壊れて しまったのだそう……。 西洋人たちの抗議はかれこれ1時間ほど続いただろうか。 あきらめて荷台に乗る者、通りに出てほかの車をヒッ チハイクしようとする者など。さまざまな人間模様が 垣間見れた。「サバイバル」、そんな言葉がふと僕の 脳裏をかすめる……。 (夫・吉田友和筆) トラックの荷台に15人 -後編- (カンボジア) 「これ、絶対先に乗っといたほうがいいっすよ。僕の 予想では最終的にみんな乗ってくることになると思う し」。私たちより年下でありながらアフリカを含む、 世界各地を旅するベテラン・バックパッカーの悠平く んがそっとそう言った。彼はたまたま国境から同じバ スになった旅の道づれである。欧米人たちの交渉を見 ていてもらちがあかなそうだし、どうやら悠平くんの 言うことが正しいかもな……と思い、しぶしぶ荷物を 乗せ、トラックのへりに腰をかけた。腰をかけると言 っても、そこにはシートがあるわけでもなく、ただの 荷台のふち、正味5センチぐらいの鉄板の上である。こ の時点でトラックに乗り込んだのは8人ほど、欧米人バ ックパッカーの交渉も1時間が過ぎようとしていた。も うどうにでもなれという気持ちのトラックの住人とな った私たち、いまだ喧々諤々の欧米人、そしてマイク ロバスのときからいちゃいちゃしていたフランス人カ ップル。彼女たちはなんと交渉しながらも隙を見ては 「んちゅ」、「んちゅ」とこの後に及んでもいちゃつ いているのだった。 「レッツゴー!」。荷台の住人になったダンディーな ドイツ人のおじさんがしびれをきらしたように言った。 行く人は行く、行かない人は自力でなんとかする、そ れでいいじゃないか。もう日暮れだぜ。そんなことを ドイツなまりの英語でまくしたてた。このとき時刻は 5時半を過ぎていた。たしかに私たちもなるべく夜の 移動は避けたいと思っていたので、解決策がないのな らもう早く出発してほしかった。しかも今なら荷台は きついけれど、若干のスペースはある。そうそう、い っちゃえ、いっちゃえ〜という荷台チームの応戦もあ って、トラックのドライバーはエンジンをかけ、ガイ ドと、あなたはなんで乗るの? と突っ込みたくなる ような、一見無用と思われるカンボジア人数人ががひ らりとトラックの屋根やフロントに飛び乗り、トラッ クはゆっくりと進みだした。 そのときだ。「WAIT! WAIT!!!!」とものすごいかなき り声が聞こえた。先ほどのいちゃつきフランス人カッ プルの女の子のほうが目をつりあげ、動いているトラ ックの荷台をガシっとつかまえた。「ふざけんじゃな いわよ! 私たちも乗るわよ! 私たち全員分の荷物 を乗せるスペースをあけなさい! それから私たち全 員の乗るスペースもあけなさいっ!」そんなことを超 大声早口の英語でまくし立てた。そのかなきりっぷり たるや、まるで映画のワンシーンのようだった。あっ けにとられ、目が点になる荷台住民。くすくすと笑う カンボジア人。やれやれと動き出すガイド。交渉に失 敗した欧米人はバツが悪そうに乗り込んできた。けれ どフランス人のいちゃつきカップルだけはさも当然か のようにトラックの中央に陣取り、驚いたことにここ でも男は女の耳のそばに口をよせ、何やら甘〜い愛の フランス語をささやいているのだった。かくして荷台 に15人乗せ、座席に7人乗せ、屋根やフロントにも人や 荷物を乗せ、まさに一台に鈴なりになってよたよたと トラックは出発した。 「なになに、たったの4時間だよ」、「無事についたら ギネスに申請しよーぜ」。トラックが出発するともう 腹をくくった乗客は口々にジョークを言い合った。そ れでも外国人が鈴なりになってトラックで運ばれてい くのである。道行くカンボジア人は目を見開き、子供 たちは喜んで手を振り、車の後をおいかけてきた。お とぼけキャラの欧米人が「外国人の見世物車ですよ〜」 と乗客の笑いをとっていた。けれどそんな愉快な時間 もそう長くはなかった。なんぜ座っているのが言っち ゃえば窓のサッシのようなところである。おまけに道 は舗装されておらず、赤土がむき出しとなっているう え、大きな石や穴ボコは当たり前という悪路。ともち ゃんと私は砂埃対策でハンカチで口鼻を覆うドロボウ 巻きにし、帽子の紐をぎゅっとアゴにむすびつけた。 ふたりともメガネゆえ、顔部分で見えているのはメガ ネだけだというマヌケな姿だ。「そういえば私たち、 これが新婚旅行なんだよねー」と言うと、ともちゃん が力なく笑った。走れば走るほど、「あなたの足が私 の足に乗って痛い」、「この荷物をちょっと左にやっ てくれないか」、「私のつかまるところがない」…… など、みな口々に不都合を言い出した。そのたびにみ なちょこっとずつ動き、走っている間中、荷台は常に もぞもぞと動いていた。 そうこうしているうちに、あたりは真っ暗になってい った。走りながら、振り落とされないようにつかまり ながら、色々なことを考えた。日本でパジェロとかレ ンジ・ローバーに乗っている奴は全員カンボジアに寄 付しろ!、カンボジアも内戦なんてしてないで、さっ さと道を作るべきだよ、しかも地雷とか埋まってるん だよね、そういえば私のやっていた雑誌はちょうど今 頃締め切りだー、まーちゃんは彼氏と別れたのかな… …とりとめもなく色々な事柄が頭に浮かんでは消え、 浮かんでは消えた。ふと空を見ると、曇り空の間から 星がちらちらと見えた。星が瞬くっていうけれど、た しかに瞬いているなーと実感したのは初めてだった。 途中、プシューっと音がしてタイヤがパンクしたけれ ど、そんなことは屁でもなかった。ドライバーがてき ぱきと作業するのを乗客一同、呆然と見守るだけだった。 途中、「こんなところに人が住んでるの!」というよ うなジャングルの中の村を通った。暗闇の中から好奇 心に光るいくつもの目がこちらに向けられている。片 足のないおじさんが通行料をせしめようと、松葉杖で 仁王立ちしていた。そんな村や壊れそうな橋をいくつ も渡ってちょうど5時間がすぎた頃、街の明かりが見え てきた。ガイドはうれしそうに「あそこが飛行場で、 あのホテルが……」と説明していたが、乗客は誰もそ んな説明を聞いていなかった。フランス人のカップル だけは「ようやく着いたね」とまた「んちゅ」、「ん ちゅ」、といちゃついていた。街の中央部についたと き、車がガラガラと不吉な音を立てたと思ったら、き ゅきゅっと止まった。ドイツ人のダンディーおじさん がひらりと降りて車を見て、大声で笑う。「タイヤが ひとつ、取れちゃってるよ!」。見ると、本当にひと つのタイヤが車からスポーンとはずれていた。私たち は体のあちこちを伸ばしながらもそもそと荷台から降 り、ギャグマンガのようなオチでもってこの悪夢のよ うなトラックの旅に終止符がうたれたのだった。 (妻・松岡絵里筆) ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 旅の音楽 「そんなの絶対旅のジャマになるよ」と各方面からの ありがたいお言葉を徹底的に無視し、MP3にして持ち歩 くこと数万曲。ここでは音楽好きなふたりの旅中のBGM を押し付けぎみにご紹介していきます。果たして1年で 聴ききれるのか!? ちなみに旅人ゆえタイムリーさはま ったくありません。 fishmans『男達の別れ』  アンコールの遺跡群を観光した夜、なんだか知恵熱が 出たようで、なかなか寝付けなかった。そんなとき、ふ と聴いてみようと思ったのがfishmansの最後となったラ イブ盤「男達の別れ」。ものすごく熱烈なファンだった わけではないが、それでももうこのバンドが存在しない という事実、そしてそれを予言するかのような、ある種 神がかった佐藤氏のボーカルはあまりに痛く、胸をしめ つける。だからこそ、日本にいるときは決して聴けなっ た1枚だ。  アンコールの遺跡は、実に雄大だった。過去の遺産で はあるけれど、人々はそれとともにたくましく生き、そ こには確実に“生”があった。それと同じく、今聴いて みても、このアルバムは実に生々しい。ダビーで浮遊感 あるサウンドながら、そこに強烈な核となる佐藤氏の歌 声が響く。その音がポータブルのペラペラなスピーカー から流れているという現実に、なんだか満たされた気分 で一杯になった。 福山雅治「桜坂」 私たちを知ってる人は、まさかカンボジアで福山雅治を 聴いてるとは夢にも思ってないでしょー(笑)。旅行者 の中でよくある「あそこのバスが落ちたらしい」という 怖〜い話を聞いてすっかりビビってしまったふたりは、 気分を紛らさそうとなぜか連ドラの話をしてゲラゲラ笑 い、ついでに未来日記の話をしながらこの曲をリピート してました。でも実際いい曲なのよね。 その他に聴いたもの ●Deline『Deline』 ●V.A『Room Service』 (妻・松岡絵里筆) ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 今号のおことば 「もう4時だよ〜」 シュムリアップのゲストハウスにて夫・友和の発言。 無職といえども、あっという間に時間は過ぎていくのね。 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 「ホームページ、更新しないとねぇ」   ‥‥今日も妻は夫にプレッシャーを http://www.sekai-isshu.com/ ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 吉田夫婦の浦島太郎化を防ぐ!! 世界を旅しつつ、常に意識している我が祖国ニッポン。 「○○と○○が付き合いはじめたんだって」なんて身 内ネタから「国会情勢が……」なんてニュースまでお 便りください。要はさびしいってことですよ、でも素 直に言えないワタシたちなんですよ。ちなみにオスス メスポット情報、旅先合流も大歓迎!! mailmag@sekai-isshu.com ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ■このメルマガはインターネットの本屋さん 『まぐまぐ』を利用して発行しています。 http://www.mag2.com/ ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ ■ご購読の解除・アドレス変更は ホームページ上から簡単にできます。 http://www.sekai-isshu.com/ ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ メールマガジン「世界一周デート」  発行責任者:吉田友和、松岡絵里